藤井聡京大教授「第二波に備え『8割自粛』を徹底検証すべし」【緊急反論④:「効果の無い自粛」が多数あることが判明。以後、一律自粛を回避せよ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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藤井聡京大教授「第二波に備え『8割自粛』を徹底検証すべし」【緊急反論④:「効果の無い自粛」が多数あることが判明。以後、一律自粛を回避せよ】

集中連載「第二波に備え「8割自粛」を徹底検証すべし」

2020年7月1日、東京ディズニーリゾートが営業再開に(AFP/アフロ)

■(1)自粛は一体どの程度意味があったのか?

 この「第二波に備え『8割自粛』を徹底検証すべし」という連載は、「以後」の対策をより適切化するために、西浦教授が提案して政府が採用した「一律8割自粛」要請を様々な角度から検証するものです。

 前回の記事で、筆者は「第一波の収束に貢献したものは、自粛ではなく『水際対策の強化』であった」という実証的知見を紹介しました。
(緊急反論③:自粛でなく水際対策の強化が感染を収束させた)

 ただし、その記事の最後で筆者は、
『……一言申し添えておくなら、だからといって「自粛」「ステイホーム」そのものが全く無意味だったかどうか、という議論はまた別の議論です。言うまでもありませんが、理論的には接触を断てば、感染が縮小するのは自明です。
 しかし、少なくとも今回のデータを見る限り、今回の第一波の収束においては、その「自粛による効果」を「渡航者抑制の効果」が「凌駕」していたというのが実態だったと考えられます。」
と書きました。

 ついては今回はこの点、つまり「自粛は一体どの程度意味があったのか?」をお話ししたいと思います。こうした分析は、これまでに紹介した諸分析とあわせて、「以後」の対策を考える上で極めて重要な意味をもつからです。

■(2)「自粛の効果」を検証するにあたっての、基本的な考え方

 ところで、分析に先立ち、どういう考え方で分析を行ったのかを、簡単に説明しておきたいと思います。

 まず、前回の記事で感染拡大スピードを抑制したのは、3月中旬頃の「海外との往来抑制」つまり「水際作戦」であったという事を指摘しました。
すなわち外国からの来訪者は、2月は月100万人もいたのですが、水際作戦の強化によって3月には大幅に減少していき、これが感染拡大を抑止したと考えられるのです。
そして、4月にはたった「2900人」というほぼゼロの水準となりました。
https://www.yamatogokoro.jp/inbound_data/38489/

 したがって、(3月までのデータを用いず)「4月以降」のデータに着目すれば、海外からの流入の影響はほぼ無視しつつ、「日本人から日本人への感染」の影響だけに着目した分析が可能となるわけです。
 ついては、(海外からの渡航が全く無くなった)4月以降のデータを使って、「感染拡大スピード」と「人々の自粛傾向」との関係を分析する事を通して、自粛の「効果」を検証することとしました。

■(3)「活動自粛」と「感染拡大スピードの下落」が平行して進んでいった

 以上の考え方に基づいてとりまとめたデータが、以下の図となります。

感染拡大スピードと各活動量の推移

 この図の中の赤い太線が、前回の記事でも紹介した感染拡大のスピード(つまり、新規感染者数の前日から翌日にかけての変化率の15日間移動平均値)の推移を示しています。そしてそれ以外の線は、Google(https://www.google.com/covid19/mobility/)が公表している施設別の日本全国の滞在時間データ(ベースラインからの減少率)の推移を示しています(滞在時間についても15日間移動平均データ。なお、施設については小売店・娯楽施設/食料品店・薬局/公園/公共交通機関/職場/自宅等の6カテゴリーを考慮)。

 このグラフをよく見ますと、実に様々な事が分かってきます。少々ややこしいですが、「自粛がどれくらい大事か/あるいは大事じゃ無いのか」を理解する上でとても大切な考察になりますので、じっくりとお付き合い下さい。
 まず、GWが始まるまでの間(4月1日~24日)の期間に着目しましょう。

 この間、感染拡大スピードが縮小してきていることが見て取れます。そしてそれに合わせて、小売店・娯楽施設や公共交通機関等での活動時間が「自粛」によって、下落してきていることが分かります。

 この「自粛」が「感染拡大スピード縮小」の「原因」であったかどうかということは確定的には言えません。なぜなら、その間、手洗いマスクの励行や宴会の自粛等、自粛とは異なる予防策がさらに進んでいた可能性も考えられるからです。ただし、このデータは、自粛による感染抑止効果があった「可能性」を示唆するものであることは間違いありません。

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藤井 聡

ふじい さとし

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。京都大学工学部卒、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授等を経て、2009年より現職。また、11年より京都大学レジリエンス実践ユニット長、12年より18年まで安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。専門は公共政策論。著書に『経済レジリエンス宣言』(日本評論社)、『国民所得を80万円増やす経済政策』『「10%消費税」が日本経済を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』(共に晶文社)、『プラグマティズムの作法』(技術評論社)、『社会的ジレンマの処方箋』(ナカニシヤ出版)、『大衆社会の処方箋』『国土学』(共に北樹出版)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)、MMTによる令和「新」経済論: 現代貨幣理論の真実(晶文社)など多数。

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